明治１２年創業の丸正酢醸造元さんは、世界遺産に指定されている熊野三山の麓で、那智山からの伏流水を使い、良質な熊野杉で作られた木桶で、昔ながらの古式醸造法で無添加の酢をつくり、そのコクのある柔らかな旨みあるこだわりの酢は、国内外問わず多くのファンを持っています。2007年にモンドセレクション初出品にして最高金賞を受賞、以来４年連続最高金賞を受賞している「那智 黒米寿」。世界が認めた黒酢のこだわりを求めて、製造販売元の丸正酢醸造元さん（創業１３０年余）の３代目・小坂晴次社長に、実は丸正さんのお酢に魅了されているマチコがインタビュー。

―　実は私は、丸正さんの「ちゃんぽんず」（ポン酢）が大好きで、特にここ最近は調味料が必要なときは、何にでも「ちゃんぽんず」をかけているのです！ですから今日は、お目にかかれて大変光栄です。数ある商品の中から、モンドセレクションへの出品に「那智 黒米寿」を選ばれた理由をお聞かせいただけますか？

この「那智 黒米寿」は、製品にするのに大変な労力がかかり、でもその甲斐あって酢づくり一筋の人生の集大成のようなものが出来上がりました。きっかけは、３０年前にアメリカでマクロビオテックという自然食事法（現在では、マドンナやトムクルーズも取り入れている玄米を主食、野菜や漬物、乾物などを副食とすることを基本とし、独自の陰陽論を元に食材や調理法のバランスを考える食事法。）の提唱者から、「もち米の玄米で黒酢を作って欲しい。」と依頼されたことから始まります。
もち米の澱粉はアミロペクチンのみで出来ているため、粘りけが強くすぐに餅状態になるため米麹をつくるのが非常に難しい。なので、一度はお断りをしたのですが、あまりに熱心に頼まれたので、挑戦してみることにしました。長い年月をかけて研究し、ようやく成功しました。もち米の玄米で作った黒酢は、今尚、世界に類をみないとして世界各国からお問い合わせや注文があります。ですから、モンドセレクションへも「那智 黒米寿」を出品しました。

―　「世界に類をみない黒酢」ってすごいですね！それだけ作るのが難しいもち米を使った玄米でつくる黒酢と、通常の玄米でつくるものとの違いは何ですか？

もち玄米に含まれている澱粉は、うるち米（通常の玄米）とは違い混ざりのないアミロペクチン澱粉質のため、天然麦芽糖デキストリン、天然ぶどう糖がほどよく混ざり、粘りのある独特の風味芳香をつくり出します。それと共に、長い熟成期間に身体によい天然アミノ酸、ミネラル、有機酸が生まれます。もち玄米でつくる黒酢の方が、健康を保つために必要な栄養素が自然にたくさん含まれるのです。

―　なるほど！だから、マクロビオテック（自然食事法）の提唱者の方も、もち玄米で作る黒酢が欲しかったのですね。そのほかに「那智 黒米寿」のこだわりはありますか？

「醸造は水が命。」　うちは熊野の那智山からの伏流水でいい水に恵まれています。江戸時代から敷地にある井戸は、豊かな那智滝の湧き水を誇りその水を工場に引き込み、止めることなく流しています。それによって常に一定の良質な水が汲み取れるのです。このお水をそのまま製品にしたいと依頼があるのですが、この水は酢のためのものなので、お断りしているんです。
その水を用い、熊野産のこだわった高品質のもち玄米を使い、今では全国でも数少なくなっている木桶でつくる完全な手作りの自然方式（古式醸造）を守って醸造しています。桶の木にもこだわり、地元の太くて固い良質の熊野杉だけを使っています。スギ木桶でつくる酢は香りとコク味がホーローなどでつくる酢とは全然違います。「那智 黒米寿」は、５００日の長い月日と手間をかけ、昔ながらの手作りで愛情込めて醸造熟成していきます。そのため大量生産ができず、限定販売という形をとっているんです。

―　凄いですね、ひとつひとつすべてにこだわりを感じます！さすが、４年連続モンドセレクション最高金賞を受賞されていることがとても納得できます。那智山の湧き水の熊野杉の木桶、熊野産のもち玄米・・・それだけでも神聖なお酢のように感じられます。

ここ熊野は、「修験道」山岳仏教の聖地です。私は、醸造にも「醸造道」「発酵道」というのがあると信じて酢づくりに励んできました。60年以上やって決して酢づくりの奥義を極めたと思っていません。まだまだ修行の身と思っています。２０年ほど前に、修験者に話を聞きにいった際に、修験者が最後にホラ貝を吹いたんです。その音色を聞いたとき、私は魂が揺さぶられる想いがしました。そして、「このホラ貝は道具ではなく、これそのものが修験道なんだ。」といわれました。
以来、修行の身としてホラ貝の吹き方を学び、何ヶ月もかかって何とか吹けるようになり、蔵の前で毎晩ホラ貝を吹きはじめました。はじめは精神統一のために行っていたのですが、ホラ貝を吹きはじめてから、菌の発酵状態がとてもよくなり、菌の表情や状態がだんだんわかるようになってきたんです。「酢は生き物」そのためには、菌の住みやすい環境づくりが大切。木桶にこだわるのも菌が木の目を通して呼吸するからなんです。

―　「那智 黒米寿」をはじめ御社の商品は、まろやかで優しい味がします。それは、良質な原料だけでなく愛情いっぱいかけてもらっているからなのですね！那智 黒米寿以外にもたくさんいろいろなラインナップがあり、「塩ポンず」や「発酵黒にんにく黒酢」など新しいタイプのもあって、古式醸造でありながら斬新な感じがするのですが・・・。

那智 黒米寿のときもそうですが、「○○を使って酢をつくってくれ。」と頼まれると、どんな酢ができるだろう！と挑戦したくなるんだよ。で、難しくても美味しい酢ができたときは嬉しい。でも製法はかえず古式醸造でね。

そういって目を輝かせて語るお姿は、少年のようで（すみません・・・。）とても８２歳には見えない小坂社長。昔ながらの職人気質のようですが、とてもチャレンジャーで気さくなお人柄と、愛情いっぱいに育った丸正酢醸造元さんすべてにますます魅了されすっかりファンになったマチコ。小坂社長はじめ従業員の皆さま、ご家族の皆さま本当にありがとうございました。