モンドセレクション審査委員長 ジョセフ・べゼマン教授のスピーチ
先日開催されたモンドセレクション授賞式にて、モンドセレクション会長 パトリック・デュ・ハリュー氏のご挨拶のあと、モンドセレクション審査委員長である、ジョセフ・べゼマン教授が強く関心を持つ話題をお話されました。(※以下、日本語訳栞より抜粋)
栄養価の品質はモンドセレクションの目指す課題であり、近年富みに重要視されていますが、その傾向は今後も続くことは間違いないでしょう。自由化が進む食料品の貿易業界にて、国内外いずれの市場に於いても、製品の品質・安全そして付加価値の保証が貿易の成功の鍵を握る要因となります。
品質の価値は複雑である
品質とは単純に且つ包括的形態で定義することが困難であり、その価値は複雑なものです。なぜなら、一般的な味覚、視覚や食感などの主観的な品質判定要素に加え、生産工程や環境及び動物保護の見解や利便性なども価値を判断する要素となるからです。そして、食品の安全性は品質の価値を判断する必須条件となります。しかし、消費者にとって食品の官能的品質は容易に判断できるものの、食品の健全且つ安全性を判断することは容易な作業ではありません。例えば、腐敗した食品を摂取することは通常危険であると判断されます。しかし、そのような食品の状態もある特定の消費者にとっては珍味として捉えられることも想定できるからです。
衛生規定の大前提として食品関連企業は取り扱い食品の安全性に対して全面的に責任を負わなければなりません。つまり、食品の流通に於いては、製品の製造過程から消費者の手元に届くまでの全工程(農場から食卓まで)が衛生規定に即したものである必要があります。国産と輸入品とに関わらず、食物の安全性は重要な課題であり、市場で流通する全ての食物製品の安全性を確保する為に、法による規制が適用されます。しかし、いかなるシステムにも落とし穴は存在します。よって、食物汚染も避けられない現象であり、皆さんも実例を上げられることが出来るのではないでしょうか。無論、突発的に安全基準から逸脱したことによって発生するケースと不正な行為の結果、発生するケースは異なる次元にて対処されるべき事象であることは容易に理解できます。
モンドセレクションの評価基準
モンドセレクションの評価基準は応募商品の品質に重きを置きます。商品の種類や性質にもよりますが、評価手段として、異なる分野の専門家パネルによる官能分析および、公式ラボでの細菌学及び化学分析などを採用しています。また、科学専門家審査員によって、栄養成分とそのラベル表示、健康に関連するそれらの成分の効能ならびに成分の性質など、説明書に記載されるデータの検証も行います。
本年度(2009年)のモンドセレクションでは、特に食品の栄養価値の分析に細心を払いました。衛生状態やラベル表示が完璧に規制に則った商品であっても、栄養価の低い商品は優良な品質商品とはいえないからです。
消費者の衛生は各国の厚生労働省の管理下に保証されており、そのミッションは我々の使命ではありません。しかし、モンドセレクションは生産者の誠実性を検証し、消費者の衛生保証へ貢献しております。
モンドセレクションの役員会は常に欧州の食品法に従った評価を行います。そして、その法規はアメリカの食品医薬品局や日本の厚生労働省の規定などに見られるように、数多くの非欧州国にて採用されている法律と共通点が多く見られます。
また、我々は商品の本質的な要素(化学的、細菌学的、味覚)を検証するのみにとどまらず、生産者が消費者に必要且つ正しい情報を伝達しているかも検証します。なぜなら、消費者が手に取る商品のラベルは彼らに真実を伝えるツールでなければならないからです。
ヨーロッパ食品情報会議が細菌発表した研究によると、今日の消費者は栄養の価値を理解し、健康とバランスの取れた食生活を評価する傾向にあるが、ラベルに記載される用語の認識は浅いようである。消費者は必ずしもラベルに盛りだくさんに記載されたデータに沿って健康な食生活を試みるわけではないが、消費者とサプライヤー間の信頼関係というよりは、コミュニケーションツールとしてラベルのデータは常に正確な情報であるものと信じている。
伝統食品
消費者との様々な出会いを通じて驚くのですが、彼らは常により品質の高く、そしてバラエティーに富んだ食材を求めています。いずこの土地でも食物は伝統文化と深く関わっているものです。人々は、個々のあるいは共有する伝統文化が、その特質を活かし育んだ製品に強い愛着を示します。その特別性を考慮し、欧州理事会は飲食料品の地名登録と保護を目的とする、欧州全域を対象としたシステムを設定しました。
次にあげる制度はこれまでに認可された指定称号です:原産地名保護制度(PDO)、地理的表示保護(PGI)、伝統的特産品保証(TSG)。これら制度は、伝統的製品の生産に携わる農家や製造業者がその商品の特性に見合った価値にて取引ができ、なおかつ伝統的手法を使用していなかったり、ゆかりの地で生産されていない類似商品が市場で流通しないよう、彼らの利害を保護する目的を持ちます。モンドセレクションのラベルはこれらの産地保護を表示するものではありませんが、消費者へその商品の優秀性を保証する表示となります。
ヘルスケア
肥満やそれに伴う様々な健康障害は現代の社会現象の大きな問題ですが、これらは予防可能な病気です。しかし、これらは生活習慣による病気であり、一筋縄に解決できる問題ではありません。なぜなら、現代人は健康に不必要な食物を取り過ぎる上に、十分な運動もせず、ストレスから過度の飲酒や喫煙をする傾向があるからです。
現代社会は経済学者がなづける「ヘルスケア世紀」に突入しており、順調にいけば2010年には世界的に最も大きな経済セクターへと成長を遂げるでしょう。しかし、同時にヘルスケアが抱える経済問題は多くの国で深刻化しています。問題を克服するには様々なセクターが一団となって社会的な政策を打ち立てる必要があるのです。つまり、ヘルスケア業界関係者が率先し、明確かつ分かり易い政策を広く消費者に浸透させ、生活習慣の改善に努めなければならないのです。ヘルスケア業界を監督する目的で、欧州連合主導により、次の3つの重要な方針が採決されました。健康及び栄養効果に関する表示、ビタミンやミネラルの食物への添加、そして栄養価表示に関する規定の設定です。
近年栄養学の発展に伴い、特定の食物成分が肉体の機能に影響を及ぼすメカニズムについて、多くの情報が明らかになっています。その結果、消費者は健康促進効果が期待できると宣伝する食物製品を好んで選択し、科学者もマーケット専門家もその傾向はより一層強くなるという見解で同意しています。消費者動向の市場分析によると、この2、3年以内にほぼ全ての食品分野に於いて健康促進フーズがバラエティーとして確立すると予測されます。時に、循環器、肥満、がん、骨粗しょう症や非インスリン依存の糖尿病など、慢性疾患や衰弱性疾患のリスクを低下させる技術が注目を浴びています。
さて、ヘルスケアの話題の最後にダイエット及び健康食品について述べたいと思います。これらの製品は、栄養学や栄養補助あるいは多様植物性栄養素を食物に添加したものを指しますが、その成分の栄養分析や健康効果など正確に消費者に伝達することによって、社会的な健康促進の発展に繋がることが期待出来ます。これらの情報、例えばその食品の栄養特性や健康効果(食物の成分そして栄養学の作用により期待できる健康状態)は、ラベルを通じて消費者に伝えることが出来ます。また、食品の健康的効能を宣伝することは食品会社の重要なマーケティングツールとなり得ます。
サプリメント市場
近年サプリメント市場は急激な成長を遂げており、モンドセレクションにおいてもその傾向が強く感じられます。サプリメントの構成物質にはビタミンやミネラルなどをはじめ、ヨーロッパ市場だけでもおよそ400以上の物質が使用されています。サプリメント成分のデータは、分かりやすく簡素化する目的で、流通する市場の現状と法規制に従い、最も汎用性の高い次の6種類の成分、アミノ酸、酵素、プリバイオティックならびにプロバイオティック、脂肪酸、植物ならびに植物エッセンス及びリコピン、ルティン、コエンザイムQ10、カルニチン、グルコサミン、キトサンなどその他の物質に分類されています。
数年前の統計では欧州連合に於けるサプリメント市場はおよそ50億ユーロ(約6750億円小売価格ベース)でした。この数値の内訳は、ビタミンやミネラル等の食品サプリメントが市場の50%を、またその他の成分を含むサプリメントが43%で21,5億ユーロ(約2902.5億円)相当でした。1997年から2005年の期間に、その他に分類される成分を含むサプリメントの市場はイギリスで20%、ポーランドで219%の成長を遂げています。2005年から2010年の同市場の成長率は、欧州連合国によっても異なりますが、4%~45%、平均20~25%の伸び率であると推定されています。
昨年度は、欧州連合に於ける食品サプリメント(欧州理事会規定 2002/46)や薬草療法(欧州理事会規定 2004/24ならびに2004/27)に関する規定に関してお話しましたが、2005年に採決された規定によって、市場で流通が許可される食品サプリメントは、その適正が認定されたサプリメントのリスクを元に、流通数と品質を取り締まっています。食品サプリメントの安全性は欧州食品安全機関が設定する規定に沿って監督されるもので、例えばビタミンやミネラルの許容含有量なども当機関が決定します。
食品サプリメントに関する規定はその他の食品や薬草療法に関する規定も考慮した上で遵守されるべきもので、ヘルスケア専門家や栄養学者はサプリメント商品の純粋性やその効能に関する広告の取締りがゆるいことを嘆いています。つまり、より厳格な規定を必要としているのです。例えば、商品を分類する際に、その内容物が栄養食品、薬草、食品サプリメントあるいは医薬品など、どのカテゴリーに分類されるべきなのかを定義する明確な規定すら存在しないのです。例えば「にんにく」などは、植物、食品および薬草のいずれかのカテゴリーにも該当するため、分類が困難な商品のひとつです。また、化学的に成分を調合し薬草医薬錠剤としても販売可能でもあります。いずれにせよ、食品サプリメントも然り、既存の薬草療法商品も然り、これら商品を規制で取り締まる作業は容易ではありませんが必要不可欠な作業で、常に議論を伴うことになるでしょう。消費者あるいは患者という立場に立った場合、この業界では誠実で分かり易い情報開示を要求されるとともに、商業的利益よりも国民の安全が常に優先されるように厳しく統制されるべきです。
モンドセレクションでは、化学的根拠を最大限に活用し、これら商品の評価に努めます。
2009年6月1日 モンドセレクション 2009 授賞式にて
モンドセレクション審査委員長 ジョセフ・べゼマン教授より